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生物多様性への圧力・インパクトを理解する[コンセプトノート#2]

[Concept notes] 生物多様性評価のトップレベル原則

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エグゼクティブ・サマリー

自然への人為的な圧力は、人間や社会の活動に伴って避けることができない副作用です。これらは多様な人間活動から生じ、種の個体群や生息地に負の影響を及ぼします。こうした圧力は、「地域的な行動で止められるもの」「部分的にしか止められないもの」「止められないもの」に分類することができます。土地利用転換は、地域の意思決定に委ねられているため、地域的な行動で抑止可能な主要なインパクトです。一方、気候変動は人類全体の活動によって引き起こされるため、地域レベルの行動で打ち消すことはできない圧力です。

プロジェクトによる影響は三つのレベルで発生します。まず、建設によって直接的に覆われた範囲では、重大な生息地喪失が生じます。次に、騒音、夜間照明、粉じん、人間活動の増加といった圧力によって、周辺域に攪乱やより小規模な間接的影響が広がります。そして、いわゆるスコープ3の影響は、調達やビジネスのバリューチェーンを通じて世界中に分散していくものです。

こうした圧力に関する情報と分析は、個別の種や資源のリスク評価、開発における環境影響の回避(ドキュメント#4および#5)、あるいは自然に優しい行動のターゲティング(#3 および #4)など、幅広い文脈で有用です。これらの活動は、事業許認可、生物多様性影響に関する報告、国際基準への適合、そして生態系サービスを通じた社会関係(#7)など、事業面でも重要な意味を持ちます。

本ドキュメントは、シンク・ネイチャーによる「人と生物多様性の関係を理解するためのコンセプトノート」シリーズの第2号です。次のノート(#3)では、圧力を軽減し、生物多様性と生態系サービスを維持・向上させるために取り得る「自然に優しいアクション」について議論を続けます。

本コンセプトノートを引用する場合は次の表記を用いてください。

Think Nature Inc. (2025). Understanding human activities, pressures and impacts on biodiversity (THINK NATURE CONCEPT DOCUMENT #2). Nature Positive Journal by Think Nature Inc. https://doi.org/10.5281/zenodo.18263761

※本記事のPDF版はこちらからダウンロード可能です(情報入力が必要)。

1. 人間活動、圧力、インパクトとは

人為的な圧力 anthropogenic pressures とそれによる自然への影響は、世界的に自然環境の現状に対する社会的関心の高まりの主な理由である。こうした圧力はさまざまな人間活動から生じるものであり、「脅威 threat」「ストレッサー stressor」「人為的強制 anthropogenic forcing」「攪乱 disturbance」「ドライバー driver」など、密接に関連する多くの用語で呼ばれている。「脅威 threat」は、生物多様性保全の分野でよく使われる言葉であり、種の減少を引き起こす人為的要因を指す。一方、「ドライバー driver」は、人間の人口増加や一人当たり消費量の増大といった、より根本的な背景要因を指す言葉であり、これらが生物多様性に害を及ぼすさまざまな局所的圧力を生み出す。これらの用語の厳密な区別は、本テキストの目的上は重要ではない。ここでは「圧力 pressure」という言葉を包括的な総称として用いる。

本テキストでは、人間活動から自然への影響に至る連鎖を、以下のような構造で整理している(図1)。まず、圧力を生み出す人間活動には種類がある(図1A)。その中には、農業、水産養殖、林業、交通などのように、大面積の利用を通じて自然に直接影響を及ぼすものがある。一方で、採掘(鉱業)のように、直接的な生息地改変の範囲(フットプリント)は比較的小さい場合でも、鉱山周辺での汚染や攪乱、そして地球規模に拡散する温室効果ガス排出などによって、影響が拡大する活動もある。また、行政支援サービスのように、直接的な影響はほとんど無視できる程度であっても、調達やサプライチェーンを通じて間接的・外部化された影響を及ぼす活動も存在する。ここで重要なのは個別の細部ではなく、活動の種類によって生じる圧力のタイプが大きく異なるという点である。

生物多様性に害を及ぼす圧力には、その作用メカニズムの違いによって多くの種類がある(図1B)。圧力を、それがもたらす影響の種類(図1C)という観点から考えることも有用である。例えば、土地利用は生息地の直接的な喪失や分断を引き起こし、その地域に生息するすべての種に影響を及ぼす。一方で、汚染は感受性の高い種において出生率の低下や死亡率の上昇といった経路を通じて作用する可能性が高い(種ごとに感受性は異なる)。個体群の過剰な利用は、特定の一種に対してのみ極めて高い死亡率を引き起こすことがある。

生態系サービス(自然が人にもたらす便益) ecosystem services は、生態系のプロセス、すなわち生態系内での生物活動や生産性によって生み出される。生物多様性への負の影響が生じると、生態系サービスの供給は低下する。すべての分類の生態系サービス―基盤的サービス、調整サービス、供給サービス、文化的サービス―が影響を受ける可能性がある(図1C)。生態系サービスの地域的な喪失は、他の場所での生態学的な回復によって補うことはできるが、それによって地域住民がその土地固有の自然的価値を失うことへの不満が解消されるわけではない。圧力と影響に関する詳細な議論は、2019年の「IPBES生物多様性および生態系サービスに関する世界評価報告書」においても広く取り上げられている。参照>生物多様性の代償措置(オフセット)についてはドキュメント#5で、生態系サービスについては、ドキュメント#7で詳細に論じる。

図1 (A)人間の活動・産業から、(B)人間活動によって生じる負の副作用(=圧力)、そして(C)自然および生態系サービスへの影響に至る連鎖を示す。事業の分類例としては、Eurostatの「Business economy by sector(産業別経済活動)」分類や、MRIOなどの貿易経路データベースを参照できる。なお、IUCNの「脅威のレッドリスト(Red List of Threats)」のように、(A)と(B)の項目を混在させて扱っている例もある。

インパクトの最小化と圧力の低減のために、インパクト回避と自然に優しいアクションが必要

2. 圧力と影響の主要な分類

自然への圧力を理解するために有用な概念がいくつかある。圧力が「抑止可能かどうか」は、圧力の除去、緩和計画の立案においてそれをどのように考慮すべきかという点で重要である。土地転換のような抑止可能な圧力は、地域の意思決定によって止めることができる。これは、例えば生物多様性の高い地域を生息地転換から守るといった行動を取ることが可能であることを意味する。一方で、気候変動のように、局所レベルのアクションでは抑止不可能な圧力も存在する。炭素排出削減の取り組みに全員が参加することは重要であるが、地域の努力だけでその地域における気候変動をなくすことはできない。計画の観点からは、このような抑止不可能な圧力に対しては「回避」または「適応」を図る必要がある。また、違法な狩猟のように、部分的には局所的なアクションで抑止可能な圧力も存在する。表1は、特定された主要な5つの圧力と、それぞれの抑止可能性の分類をまとめたものである。

圧力抑止可能性の観点からの分析
土地利用変化(生息地の喪失)
Land use change (habitat loss)
陸域および淡水生態系において最も強い圧力であり、地域の意思決定者の手に委ねられている(=抑止可能)。ただし、経済的圧力によって土地利用の停止が困難になる場合もあり、その場合は「部分的に抑止可能」といえる。
直接的な利用(過剰搾取)
Direct exploitation (overexploitation)
海洋生態系では最も強い圧力であり、陸域生態系でも2番目に高い圧力である。生物資源の直接利用は人々の手に委ねられている(=抑止可能)ものの、経済的圧力によって自然に配慮した行動の余地が制限されるため、実際には「部分的に抑止可能」となる。
気候変動
Climate change
生態系変化や生息地劣化を引き起こす大規模な地球的圧力であり、地域的な観点からは完全に抑止不可能である。
汚染
Pollution
人間活動の副産物として生じる場合、技術的な解決策によって大幅に削減、あるいは排除することが可能である。すなわち、「抑止可能」または「部分的に抑止可能」である。
外来種
Invasive species
抑止可能から部分的に抑止可能、あるいは抑止不可能まで、その状況は外来種の特性や地域内での定着状況によって異なる。実務的に重要な問いとしては、「侵入速度はどのくらいか」「どの程度多様な環境に侵入できるか」「地域的に根絶することがどれほど困難か」といった点が挙げられる。
表1 IPBES(2019)によって特定された世界的に主要な5つの生態学的圧力と、それぞれの抑止可能性に関する説明。これらは、空間設計、緩和策、影響回避の観点から非常に重要である。

生物多様性への影響は、三つの要素から生じる。第一に、「フットプリント footprint」と呼ばれるもので、建設によって明確に定義された限られた範囲の生息地が転換されることである。第二に、直接的な損失範囲の外側にまで及ぶ、「地域的な間接影響 local indirect effects」がある。これらは、汚染、騒音、夜間の人工光、粉じん、人間活動の増加などの要因によって媒介され、一部の種はそれらを避ける傾向を示す。間接的影響は、道路などの影響源から外側へと広がっていく。汚染や粉じんは、風や水の流れによって拡散し、空気や水を介して比較的拡散的に広がる。また、場合によっては動物の移動を通じて汚染が広がることもある。フットプリントおよび地域的な間接影響は、企業が直接的に管理可能な「スコープ1」の影響に分類される。

スコープ2およびスコープ3の影響は、企業の直接的な管理範囲の外にある。炭素排出に関する文献では、スコープ2は購入した電力、蒸気、暖房、冷房の生成に伴う間接排出を指す。いわゆるスコープ3の外部影響は、企業のバリューチェーンを通じて他の企業や国々へと広く分散していく。炭素排出と同様に、生物多様性への影響もバリューチェーンを通じて分散する。スコープ3の影響を分析することは概念的・分析的な課題や膨大なデータ要求により制約されているが、限定的な形では実施可能である。

概念的には、各圧力には空間的な広がり、持続期間、強度(影響の大きさ)が存在する。建設期間中の騒音のような短期的影響は、たとえば新設の大規模道路による事実上恒久的な影響に比べれば、一般に重要度は低い。圧力の強度は当然ながら大きく変動し得る。また、種ごとの圧力に対する感受性(=脆弱性)も異なる。たとえば、騒音は植物よりも動物に強く影響する。さらに、さまざまな形態の汚染など、一部の影響は相互作用したり累積的になったりする場合がある。

騒音などによる間接的な影響は、資源採掘のような一時的なプロジェクトが終了すれば止むことがある。圧力が消失した後の個体群の回復は、ケースごとに異なる。物理的環境を大きく変化させない圧力(騒音、夜間照明など)からの回復は、比較的容易であると考えられる。

3. 広域的な影響を持つ圧力の主要な分類

発生源から外へ広がる「圧力(プレッシャー)」には、いくつかのタイプがある(表1参照)。
たとえば、新しい道路を例に考える。道路の影響には、生息地の直接的な喪失だけでなく、道路建設による動物の死亡、車両との衝突による動物の死亡、騒音や光、そして人間の出入りの増加による動物の行動変化、道路周辺の物理的環境の改変、粉じんや汚染による化学的環境の変化、さらに外来種の拡散などが含まれる。

騒音のような圧力の強度は状況によって大きく異なるため、その影響が及ぶ距離もケースごとに異なる。こうした圧力の生態学的メカニズムを理解することは、その影響を軽減するためにどのような行動が有効かを把握する助けとなる(表2参照)。

影響が及ぶ距離に関する議論は重要であるので、注記する。これらの距離は非常に幅広く変動し、あらゆる大規模プロジェクトにおいてはケースごとの評価が必要になる可能性が高い。それでも、以下の点を踏まえることで一般的なおおよその見当を得ることができる。利用頻度の低い狭い道路の「エッジ効果(縁辺効果)」は、わずか20メートル程度にとどまる場合がある。一方で人の活動範囲が広がると、人間を気にしない種もいれば、人を数百メートル、あるいは数キロメートル単位で避ける種も存在する。騒音が強い場合、その悪影響は数百メートルから1キロメートル以上に及ぶ可能性がある。粉じんは、たとえば鉱山開発などで問題となる。粉じんの拡散とその影響範囲は、粒子の大きさや化学的組成、風の条件によって大きく異なる。道路は、一般的に数百メートルの範囲で動物の個体数密度を低下させることが知られている。したがって、どのような目的であれ土地転換(開発)が行われる場合、間接的影響を現実的に見積もるためには、数十〜数百メートル(重工業の場合はそれ以上)に及ぶ影響距離を考慮する必要がある。これは、空間的な影響回避設計(spatial impact avoidance)を行う上で重要な示唆を与えるものであり、参照>詳細はドキュメント#4 および#5 において、インパクト回避の具体的手法と共に論じる。

圧力主な生態学的影響のメカニズム
騒音
Noise
騒音は、動物の採餌行動や捕食回避行動、繁殖成功率、個体群密度、群集構造などに変化を引き起こすことが知られている。音による捕食のマスキング(音のかき消し)を引き起こし、採餌中の獲物探索を妨げ、動物間のコミュニケーションを乱すことで、例えば配偶相手の探索などに影響を与える。
振動
Tremor and vibration
振動は主に触覚を通して感知される。動物に不安や行動変化を引き起こす可能性があり、また地面を締め固めたり緩めたりして、植物の根系発達に影響を与えることもある。
人工光(夜間)
Artificial light at night
夜間の人工光は、動物に対しては視覚を通じて、植物に対しては光合成を通じて、また両者に対しては光反応性色素を通じて影響を及ぼす。資源の利用可能性や利用様式、生物間の情報伝達に影響を与える可能性がある。研究では、街灯に引き寄せられた昆虫のうち30〜40%が短時間で死亡することが報告されており、光が一部の昆虫種にとって個体群の「シンク(個体数が減少傾向であるエリア)」となっていることが示唆されている。また夜間の人工光は、昆虫による受粉の減少なども引き起こすことが知られている。
粉じん
Dust
粉じんは植物にさまざまな悪影響を及ぼす。光合成活動を低下させ、蒸散や呼吸を妨げ、成長過程に影響を与え、結果として感受性の高い植物種では成長の抑制や早期老化を引き起こす。さらに、粉じんの中には重金属などの汚染物質を含むものもあり、植物および動物の両方に多様な生態毒性影響 ecotoxicological effectsを及ぼす可能性がある。
人間活動の増加
Increased human presence
人間の存在や活動の増加は、一般的に自然に対して負の影響を及ぼし、特に生息地の劣化や分断を通じて影響する。人間が存在するだけでも一部の種にとっては攪乱要因となり、実質的に利用可能な生息地が減少し、その結果として地域個体群の縮小につながることがある。
汚染
Pollution
影響の程度およびその広がりの距離は、汚染の種類と拡散の様式によって異なる。
表2 発生源から外へ広がり、距離とともに減衰する間接的影響をもたらす、局所的圧力の生態学的メカニズム

4. 最も大きいインパクト: 生息地の消失、劣化、分断化

生息地の喪失habitat lossは、生物多様性に対する主要でありながら防止可能な圧力として、特に強調する価値がある。生息地の喪失は土地利用によって決まり、その土地利用に関する意思決定は、主に地域の住民、企業、行政担当者の手に委ねられている。これは、もう一つの主要な圧力である気候変動と際立った対照をなす。気候変動は、地域レベルの行動によってそのものを止めることはできないためである。

生息地の喪失にはいくつかの要素がある。まず、直接的な土地の喪失(生息地転換・生息地破壊) direct habitat lossは、農業、林業、交通網の拡張、都市開発など、人間による集約的な土地利用によって引き起こされる。

一方、生息地の劣化habitat deteriorationは、やや異なる意味を持つ。これは、生息地の状態(植生の健全性や自然性など)が間接的な影響(前節で述べた圧力)によって低下することを指す。また、スコープ3排出のような外部化された圧力(例:気候変動)も、大規模な生息地劣化の一因となる。

さらに、生息地の転換や劣化によって生息地の分断habitat fragmentationが生じ、追加的な損失が発生する。生息地の分断とは、かつて連続的または半連続的だった生息地が、小さな断片(生息地パッチ)に分かれてしまう現象を指す。都市の中の公園や、農地景観の中に点在する森林パッチなどがその典型例である(図2)。

図2生息地の転換(黒)、劣化(濃緑)、および良好な生息地の残存パッチの分断(薄緑)を示す模式図。景観全体としての環境収容力carrying capacityは大幅に低下している。

生息地の分断は、空間的な個体群動態を通じて地域レベルの影響をもたらす。平易に言えば、生息地のパッチ(断片)は一部の種の局所個体群を維持するには小さすぎる状態になっている。さらに、分散する個体は、しばしば好ましくない、あるいは敵対的な人為改変地域を長距離にわたって移動しなければならず、その結果として分散時の死亡率(dispersal mortality)が増加する。そのため、地域個体群の減少は、単なる生息地喪失の割合から予測されるよりもさらに深刻な規模となることがある。参照>ドキュメント#6A および#6に詳細が記載されている。

生息地喪失の実効的な総量は、土地転換による直接的な喪失に加えて、生息地劣化および分断による追加的な損失の合計として表される。圧力の最も深刻な結果は生息地の喪失である。なぜなら、生息地の喪失は、その環境に生息するすべての種に影響を与えるためである。したがって、多くの種レベルでの影響は、生息地への一次的影響を介して生じる。しかし、生息地レベルの影響を経ずに、種そのものに直接的な影響が及ぶ場合もある。これは、特定の種が資源として直接的に利用(捕獲・採取)されるケースであり、種に対する追加的死亡要因として機能する。場合によっては、影響が特定の1種に集中することもある。たとえば、狩猟や、ランや薬用植物のような特定植物の採取などである。一方で、特定の種(例:漁業によって狙われる魚種)を対象とする行為が、混獲bycatchなどを通じて他の種にも損失をもたらす場合もある。

最後に、生息地喪失や再生の文脈では、個体群動態における時間的遅延time delaysが重要である。これは、種や生息地の様々な特性や、周囲に残存する生息地や個体群の量に応じて、人介入による生息地や種の変化が生じるまでの時間にタイムラグを生じることを指す。参照>ドキュメント#6A。

5. 生物多様性損失の実践的な測定:自然度とハビタット・ヘクタール

生物多様性の損失の測定は、簡単に行うことも、際限なく難しくすることもできる。

この文章の意味するところは、種レベルの測定ハビタットレベルの測定とでは、実施の困難さが大きく異なるということである。参照>このテーマの詳細はドキュメント#6に記している。

種レベルでの測定 Species-level measurement
種レベルでの測定を困難にする主な問題点は次の3つである。(i)種の数が非常に多いため、そのうちのごく一部しかモニタリングできない。(ii)動物個体群のサイズは自然変動する。出生や死亡の確率的変動、個体の地域的移動、天候、種間相互作用など、数多くの要因によって増減する。(iii)多くの種はサイズが小さく、観察や同定が難しい。これらの理由により、観察データに見られる短期的な傾向が実際の傾向なのか、それとも個体群動態や観察誤差による偶然の揺らぎなのかを判断することは難しい。理論的には、種レベルのモニタリングには無限ともいえる努力を費やすことができるが、これは本当に必要があり、そのデータが意思決定に有用である場合に限るべきである。

生息地レベルでの測定 Habitat-level measurement using habitat hectares
ハビタット・ヘクタールhabitat hectare (hha)とは、「実質的に自然状態にある1ヘクタールの生息地」を意味する。もしそのヘクタールが過去の人間活動によって損なわれている場合、そのhha値は1より低くなる。完全に劣化した生息地のhha値は0である。たとえば、自然林は 1 hha/ha の値を持つ。商業的に管理された森林は、1 hha/ha よりもかなり低い値になる。芝生は、森林として見なした場合のhha値が0である。ここで、人の手で管理された自然であっても、半自然草原など生息地としての機能が高い状態を1とみなすことも考えうる。

生態学的な損失(ecological loss)は、ハビタット・ヘクタールhabitat hectareを用いると比較的容易に計算できる。影響を受ける領域の物理的面積を A [ha]、その領域の生息地状態(コンディション)を H [hha/ha]、そして影響(損失)の程度を I(次元を持たない割合)とする。すると、生息地ヘクタール単位で表した損失量 L は次のように計算される:

L=I×H×A [hha]

生息地タイプの状態(植生の健全性や自然度)は、その構造的特徴に基づいて観察できる点が非常に重要である。これらの構造的特徴は比較的安定しており、観察しやすい。たとえば、自然度の高い半自然林semi-natural forestの構造的特徴には以下のようなものが含まれる:種類や年齢の異なる樹木が混在している/多くの倒木や枯死木がある/自然な水文環境が保たれている/大径木が存在する/多様な下層植生が見られる/外来種が少ない。一方、商業的に管理された森林では以下のような特徴がある:単一の樹種で構成される/樹木の年齢や大きさが均一である/枯死木や大径木が存在しない/下層植生は大きく改変されている。

重要なことは以下である。先に見た種レベルの測定は、理論的にはいくらでも複雑化できてしまう。それと比較して、生息地の状態やその損失を測定することは、こうした構造的特徴を計測することで実行可能である。生息地タイプに応じた構造的特徴の特定には専門知識が必要となるが、主要な生息地タイプの多くはすでに科学文献で詳細に研究されている。

6. もう一歩先へ: シンク・ネイチャーの哲学

本ホワイトペーパー(コンセプトノート)は、シンク・ネイチャーが発行するシリーズの第2弾であり、生物多様性と人間活動との関わり、そしてそれがビジネスとどのように結びつくかを紹介するものである。

人間活動に起因する、種や生息地に対する圧力の負の影響こそが、地球環境への懸念や世界的な個体群減少の根本的な理由である。こうした「圧力」と「影響」を理解することは、企業が採用する自然に配慮した行動や実践を設計するうえでも欠かせない。本シリーズの後続文書では、圧力や影響を回避・軽減・補償するためのさまざまな手法が示されている。

  • ドキュメント#3:自然にやさしく、かつ費用対効果の高い行動のあり方を紹介。
  • ドキュメント#4:データを活用した空間的優先順位付けによる、保護地域や生息地再生の最適配置を解説。
  • ドキュメント#5:プロジェクト計画における空間的影響回避や、ミティゲーション・ヒエラルキー mitigation hierarchyの文脈での生物多様性オフセットを説明。

このシリーズの続きとして、ぜひこれらの資料も参照されたい。

ビジネスの視点から整理した人と自然の機能的関わり(ドキュメント#1より)

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