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風力発電開発と生物多様性

アカデミアから見たネイチャーポジティブ

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再生可能エネルギー(再エネ)の開発は気候変動緩和策の重点政策の一つです。日本の気候変動文書だけでなく『生物多様性国家戦略2023-2030』[1]にも、2050年カーボンニュートラル」と2050年の「自然と共生する社会」を「相反させずに、同時に達成しなければならない」と記されています。しかし、再エネ導入にはバードストライク(鳥衝突)などの「悪影響を回避するための調整」が課題であり、再エネ「導入とのトレードオフを回避する」としています。風力発電(風発)の懸念事項の一つとして鳥衝突が挙げられています。

01 気候変動影響とその対策の影響のトレードオフ

 トレードオフとはリスク論でもよく使われる言葉ですが、たとえばxとyという二つの目的変数があるとき、一方が他方の単調減少関数になるような制約を意味します。再エネの場合、緩和策に貢献すれば地球全体の生物多様性には貢献しますが、ダムや火力ほどではないにしろ、土地改変を伴い、地域の自然に影響があります。トレードオフの場合、通常は、xかyの一方だけでなく、総合的に望ましい中庸の解を探します。ただし、上記の「回避」がそのような折り合いをつけることを指すのかは微妙であり、生物多様性に影響がない限りにおいて再エネを認めるとも読み取れます。

 しかし、気候変動は生物多様性を脅かす5つの要因(生息地減少、乱獲、汚染、外来種、気候変動)の一つです。気候変動緩和策は世界中の生物を守ることに貢献します。その意味では、世界の自然と地域の自然のトレードオフとも言えます。おそらく、世界の自然を守る便益の方が大きければ、再エネは生物多様性に貢献すると言えるでしょう。しかし、そのような評価が、日本の再エネの環境影響評価(EIA)で行われたのを見たことはありません。

 ただし、各事業の緩和策への貢献は必須項目ですから、温室効果ガス削減効果が世界の生物多様性に及ぼす影響を評価できれば、各事業の世界の生物多様性への貢献が評価できるでしょう。以下は査読を経ていない試算ですから、数値が変わる可能性がありますが、考え方を述べさせてください。

図1 生物多様性への影響予測結果。森林総研プレスリリース[2]より

 実は、緩和策は必ずしも世界の生物多様性には貢献するとは限りません。気候変動における政府間パネル(IPCC)では、気温上昇幅とその対策としての土地利用変化などがシナリオにあり、シナリオごとの将来予測をします。気候変動対策にはバイオ燃料農地拡大などの土地利用変化を伴います。生物多様性減少の5要因のうち、最大の脅威である土地利用変化とIPCCが関心を持つ気候変動の2つの要因を考慮して、「種の分布モデル」を用いて潜在的な生息地面積の将来予測が行われた研究事例があります。1)では、4℃上昇(温暖化対策なし)よりは2℃に抑える(温暖化対策あり)ほうが各種の生息地が守られると予測されています。ただし、対策ありのほうが土地改変による影響が大きくなります。しかし、別の論文[3]では、3℃上昇と2℃上昇ではそれほど違わないという予測もあります。温暖化防止による正の効果と、対策による土地利用変化の負の効果が相殺するというものです。そのうえで、IPCCの第6次報告書[4]では、陸域生態系では、1.5℃で3%~14%、2℃で3%~18%、3 °Cで3%~29%、5 °Cで3%~48%の種が非常に高い絶滅リスクに直面する可能性が高いとしています。予測幅の上限は温暖化が進むほど高いですが、下限は3%でほとんど変わりません。これは先ほどの緩和策による生息地減少などがあるためでしょう。また、温暖化防止は海の生物を守る効果もあるはずです。

 風発を建てた場合の緩和策への貢献は、CO2排出削減量で評価できます。風発の分だけLNG火力発電が減る場合、たとえば100MWの風発施設で設備利用率が2割(採算ライン)、耐用年数20年とした場合、20年間で3.5TWh発電し、LNG火力によるCO2排出量は474g/kWhとされますから(施設建設等に伴う間接排出を除く)、20年間で約160万トンのCO2排出削減の効果があるでしょう。ただし、再エネ施設を作る際にもCO2を排出します。森を伐れば生態影響だけでなくCO2も排出します。森はたとえば約800t-CO2/haの炭素を貯留し、20年間で230t/haの炭素を吸収する程度ですから、仮に1k㎡の森が失われたとしても、10万トン程度の「間接排出」に相当するでしょう。つまり、通常は再エネ発電の緩和効果は、再エネ施設建設によるGHG排出効果よりかなり大きいといえるでしょう。また、20年後に同じ場所に風発を立て直すときは、森を伐る影響はなく、そのころにはおそらく森の大半は回復するでしょう。ただし、同じ樹種に戻るとは限りませんから、生物多様性への影響は回復する樹種によります。

 なお、似たような計算を太陽光パネルについて杉山大志さんがネット上に公開しています[5]。彼は新たな太陽光発電を作る代わりに火力、水力、原子力、他の再エネも平均的に減らすと仮定しているので、上記よりは緩和効果が少なく出ています。

 温度上昇幅と温室効果ガス排出量の関係はIPCC文書でわかります。CO2排出を1トン減らすと0.5×10-12℃だけ地球温暖化が収まります。150万トンなら約0.7×10-6℃の温暖化抑止効果がある計算になるでしょう。

 1.5℃と3℃の絶滅リスクが極めて高い種の割合の予測の差分は0%~9%です。ただし、この予測には温暖化防止による生息地の維持の正の効果と緩和策による生息地面積減少という負の効果が含まれます。負の効果は立てる再エネ施設自体で評価すべきものであり、地球全体の正の効果と、再エネ施設自身を作る負の効果を比較することになるでしょう。後者はその事業個別にEIAで評価されます。風発施設はバイオ燃料のための農地やアマゾン川のダム開発より、生態影響は桁違いに低い場合が多いでしょう。

 上記を勘案すれば、GHG排出削減1トン当たりの地球全体での多数の生物種への生息地維持効果を試算できるはずです。その試算は今後の学術論文に委ねますが、生物多様性への影響として、GHG緩和効果と施設建設の影響を考慮した正味の貢献を試算できるでしょう。さらに、緩和策は生物多様性だけでなく、健康や産業活動など多岐にわたる貢献があるでしょう。

02 鳥衝突リスクと累積影響

 環境省の政策で、リスク評価が行われているのは、環境化学物質、絶滅危惧種、そして風発の鳥衝突リスクです。鳥衝突リスクについては、建てる前にどの程度衝突があるかを予測する評価手法も提案されています[6]

 環境影響評価手続きにおいて風車建設前の鳥の飛翔軌跡を調査し、風車の回転球内を通過する頻度を試算し、海ワシ類など希少鳥類の衝突リスクを評価します。ただし、風車建設後は鳥が風車を視認して避ける「回避率」を考慮します。回避率は実際に建ててみなければわかりませんが、他地域の例から仮定します。たとえば福井県あわら北潟風力発電所の場合には、デンマークのガンカモ類の論文から回避率を99%以上と仮定しました。ラムサール条約登録地の片野鴨池で越冬するマガン約3000羽のうち、事業者の環境影響評価による事業予定地通過頻度から、年間1羽程度が衝突すると予測しました[7]。ただし、日本野鳥の会も異なる通過頻度を公表しており、そちらでは年間20羽程度が衝突すると予測されました。このように、用いるデータごとに容易にリスク評価ができます。どちらの予測がより真実に近いかは、実際に建てた後でわかるでしょう。

 鳥衝突は、予測より大幅に多い場合には稼働制限するなどして、リスクを減らすことができます[8]。それは事業収益性に関わるが、どの程度までなら赤字にならずに管理できるかも試算できます。それは風発施設建設費用と維持管理費用、売電価格と設備利用率によります。あわら北潟風発の例では、最初の2年間は監視員を置き、マガンの群れが近づいたら数秒で風車を止める措置をとることで合意を得ることができました。このように、リスク評価の予測を超えた実際の事故が発生した場合の追加措置は、事後に監視を続けて状況次第で方策を変える、順応的管理の例と言えるでしょう。

 どこまでの衝突リスクが許容できるかは、特に基準はありません。生態リスクは、1羽の衝突も許容できないというよりは、個体群への影響で考えるべきでしょう。その指標の一つにPBR(生物学的間引き可能量)があります。もともとは米国で希少海獣の混獲数の上限を決めるために導入されたものですが、あわら北潟風発でも提案されました。控えめな個体数推定値N、最大自然増加率R、回復係数Frから、許容しうる人為死亡数の上限(PBR)はNRFr/2と計算されます。このFrは普通種なら1、絶滅危惧II類なら0.5、I類なら0.1です。例えば片野鴨池のマガンの場合、N, R, Frがそれぞれ3000、0.12/年、0.5なら年間90羽となります。ただし、これは風発だけでなく、すべての人為死亡数の総和に対する上限です。鳥の人為死亡は、高層ビルに衝突したり、猫の捕食、送電線、自動車、列車事故等のほうがけた違いに多いという報告もあります[9]。しかし、片野鴨池のマガンの場合、他の人為死亡もそれほど多くはないでしょう。

 あわら北潟風発では、実際には、それよりはるかに少ない衝突リスクが論点となりました。環境影響評価の予測と比べて実際の衝突報告がかなり多ければ、事業者は何らかの追加措置を迫られたことでしょう。幸い、この風発では2011年の影響運転開始以来、1羽の衝突例も報告されていません。

 北海道のオジロワシの場合、多くの風発施設での衝突死が報告されています。その累積影響が懸念されますが、先に述べたPBRが一つの基準となるでしょう[10]。オジロワシはロシアで繁殖した渡り個体と、国内で繁殖する留鳥がいます。環境省ではどちらも区別していませんが、渡りの個体数は多く、IUCNのRed Listではオジロワシは低懸念(LC)とされています[11]。他方、日本の留鳥の個体数は700~1000羽と指定され、自然増加率は年16~21%と言われ[12]、環境省レッドリストでは絶滅危惧II類とされていることからFr=0.5とすると、PBRは1000×0.16×0.5/2=40程度となります。風発以外の人為死亡による収容数は2018-2023年では年平均30.4羽、うち風車衝突は4.6羽です[13]。未収用、未発見の人為死亡数もあるでしょうが、この中には渡り個体も含まれているでしょう。渡りと留鳥を区別しない現在の監視体制では、PBRに基づく累積影響評価は困難です。ただし、個々の事例や時期から、渡り個体と判定できるものはあるはずです。

 衝突死の発見は、特に冬季には、事業者自身の保守見回り時の発見がほとんどです。月に1回程度の巡回の場合、死骸が肉食動物に持ち去れずに残っている確率は半分程度と言われ、おそらく発見死骸数は衝突死数全体の半分程度でしょう[14]。発見率を適宜仮定することで、人為死亡数の上限を定めることができると思います。

 ただし、その上限を超えた場合に、どの事業者が何をするかを決めることは悩ましいと思います。おそらく、新規参入者が遠慮するより、発電量に比べてたくさん衝突が生じている事業者が対策を講じるべきでしょう。あるいは、費用対効果の高い対策を講じられる事業者が対策を講じ、費用を全体で負担するような仕組みができるとよいかもしれません。

 2024年から25年にかけて、北海道幌延町の浜里ウインドファームで稼働から2年足らずの間に11羽のオジロワシ、オオワシの衝突が報告されました。事業者も事態を重く見て、音波忌避装置を導入しましたが、忌避装置導入後も衝突が続いたことから、全14基を日中稼働停止するという措置を講じました[15]。忌避装置による衝突現場の録画もあることから、衝突原因の検討も進めるべきでしょう。

 渡り鳥については、衝突死以外にも、生息地や餌場への影響や、風車を回避することで飛翔距離が長くなることも指摘されています。餌を発見した直後は風車の存在を忘れて突っ込んでしまうことも考えられますが、風発施設付近を餌場でなくすることも考え物です。飛翔距離が長くなることまで避けなければいけないかは、いろいろな考え方があるでしょう。近隣住民も、騒音を我慢することはあるでしょう。

 洋上風力発電については、負の生態影響だけでなく、漁礁効果など正の影響もあるかもしれません。日本海洋政策学会有志は、「発電設備の設置後も科学的モニタリングと評価が行われ、海洋生物多様性へ与えるプラスの影響が明らかになれば、OECM(松田注:保護地域以外の効果的な保全措置)と位置付け得る可能性にも留意すべきである」と述べています[16]

 洋上風発は、「セントラル方式」と言って、政府や自治体が適地を選定したのちに、競争入札で事業者を公募する仕組みが2023年から導入されました[17]。ただし、日本の環境影響評価制度の下では、漁業への影響は環境影響とは切り離して検討されることになり、合意形成が円滑に進むかは今後の課題でしょう。再エネは初期設備費用が多く、維持運用費用は少なく、風車設備は外国製で、地元に利益が還元しづらい事業です。生物多様性国家戦略では、「地域と共生する形での気候変動対策を進め」ることが推奨されており、たとえば、地元市民や漁業者が経営に参加するようになれば利益は分配されるでしょう。

 風発の適正立地は、風況が良く、鳥や生態影響の少ない場所が推奨されます[18]。しかし、実際の立地は、土地所有者との関係から建てられる場所が大幅に制限されているのが実情です。たとえば農地に建てることは、農水省の方針から見て制約が多いようです。風力などの再エネは気候変動対策上重要な役割を果たすはずですが、国内における設置は順調に進んでいるとはいいがたく、パリ協定の達成は予断を許さない状況です。

本記事を引用する場合は以下の表記を用いてください。
Matsuda, H. (2026). Wind power development and biodiversity. Nature Positive Journal by Think Nature Inc. https://doi.org/10.5281/zenodo.18233827

引用文献

  1. 環境省. 生物多様性国家戦略. 生物多様性ウェブサイト.
    https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/initiatives/index.html ↩︎
  2. 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所. 生物多様性保全と温暖化対策は両立できる ― 生物多様性の損失は気候安定化の努力で抑えられる ―. 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所ウェブサイト. (3 December 2019)
    http://www.ffpri.affrc.go.jp/press/2019/20191203-01/index.html ↩︎
  3.  Hof et al. Bioenergy cropland expansion may offset positive effects of climate change mitigation for global vertebrate diversity. PNAS 115. (10 December 2018)
    https://doi.org/10.1073/pnas.1807745115  ↩︎
  4. 環境省. 政策決定者向け要約(SPM). SPM B.4.1 
    https://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/ar6wg2_spm_0318.pdf ↩︎
  5. 杉山 大志. 中国製メガソーラーは製造時のCO2回収に10年かかる. キヤノングローバル戦略研究所ウェブサイト. (28 November 2022).
    https://cigs.canon/article/20221206_7162.html ↩︎
  6. 環境省自然環境局野生生物課. 鳥類等に関する風力発電施設立地適正化のための手引き. 環境省ウェブサイト. (January 2011)
    https://www.env.go.jp/content/900494454.pdf ↩︎
  7. Hiroshi Sugimoto, Hiroyuki Matsuda. Collision Risk of White-Fronted Geese with Wind Turbines. (1 June 2011)
    https://doi.org/10.2326/osj.10.61 ↩︎
  8. 島田 泰夫, 松田 裕之. 風力発電事業における鳥類衝突リスク管理モデル. 保全生態学研究12 巻 2 号. p. 126-142. (30 November 2007)
    https://doi.org/10.18960/hozen.12.2_126 ↩︎
  9. Scott R. Loss et al. Direct Mortality of Birds from Anthropogenic Causes. Annual Review of Ecology, Evolution, and Systematics – Volume 46, 2015. (10 September 2015)
    https://doi.org/10.1146/annurev-ecolsys-112414-054133 ↩︎
  10. 松田裕之, 谷圭一郎, 島田泰夫. オジロワシの生物学的潜在間引き数(PBR)と風力発電環境影響評価. 個体群生態学会第32回大会ポスター発表(一般講演). (3-4 November 2016)
    https://ecorisk.web.fc2.com/2016/PE161103.html ↩︎
  11. Haliaeetus albicilla. White-tailed Sea-eagle. IUCN Biodiversity Assessment & Knowledge Team: Red List Unit. (20 August 2021)
    https://www.iucnredlist.org/species/22695137/206723035 ↩︎
  12. 神和夫. 希少ワシ類と生息環境ー鉛中毒死とエゾシカ猟ー. 「しゃりばり」No.267.
    (May 2004)
    https://www.iph.pref.hokkaido.jp/charivari/2004_05/2004_05.htm ↩︎
  13. 環境省釧路自然環境事務所. 令和5年度オジロワシ・オオワシ保護増殖検討会. 環境省地方環境事務所ウェブサイト. (26 February 2024)
    https://hokkaido.env.go.jp/content/000266387.pdf ↩︎
  14. Masato Kitano, Saiko Shiraki. Estimation of bird fatalities at wind farms with complex topography and vegetation in Hokkaido, Japan. Volume37, Issue1. P 41-48.
    (March 2013)
    https://doi.org/10.1002/wsb.255 ↩︎
  15. 北海道地方環境事務所. 北海道の風力発電施設における海ワシ類のバードストライク続発と防止に向けた対応について. 環境省地方環境事務所ウェブサイト. (31 March 2025)
    https://www.eurus-energy.com/release/press-release/142262/ ↩︎
  16. 日本海洋政策学会有志. 次期生物多様性国家戦略に関する意見書. 環境省ウェブサイト. (31 May 2022)
    https://www.env.go.jp/council/content/12nature03/000049585.pdf ↩︎
  17. 経済産業省. 2023年度に実施予定の洋上風力発電に関するセントラル方式による調査対象区域を選定しました. 経済産業省ウェブサイト. (13 January 2023)
    https://www.meti.go.jp/press/2022/01/20230113005/20230113005.html ↩︎
  18. 環境省. 風力発電に係る地域主導による適地抽出手法に関するガイド~地方公共団体による適地抽出のための合意形成と環境調査~. 環境省ウェブサイト. (July 2017)
    https://www.env.go.jp/content/900509653.pdf ↩︎

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