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日本の人工林を考える視点

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日本の人工林

 人工林は、木材を生産することを主な目的として、人間が苗木を植栽・管理して育て上げる森林です。現在の日本の人工林は1010万ha存在していますが、どのような状態から人工林が創り出されたかは、天然林伐採跡、人工林伐採跡、草地や耕作地に植栽、に大別されます。特に第二次世界大戦後は、木材需要の高まりにより天然林の伐採がすすみ、その後に成長の早い針葉樹を植えることで人工林が増加しました。その際には、時代の要請があったとはいえ伐採が優先され、人工林としては適さない場所(例えば高標高地)まで人工林が造成されました(写真1)。

写真1 高標高地の人工林。写真の薄緑色部分の多くが人工林。 

 したがって、現在のすべての人工林が木材生産に適した場所に造成されているわけではありません(豪雪地帯林業技術開発協議会2000、長池2000、長池・荒川2020)。近年の森林政策では、「木材等生産機能の発揮が特に期待されるなど育成単層林として整備される森林」は将来的に660万haとすることを指向しています(林野庁2025a)。すなわち、現在の1010万haの人工林は、継続して木材生産を目的とする人工林が約6割、元々木材生産を目的としていたものの水源涵養機能や生物多様性保全機能などの公益的機能を重視する人工林が約4割という構成への移行を目指しており、ひとえに人工林といえども大きく異なることを念頭に考えていく必要があります。

 また、日本の人工林は、林齢が約50年での主伐(収穫)が想定されており、人工林の約6割が利用期を迎えています。主伐の多くは皆伐(区域内の樹木をすべて伐採する)で実施されており、森林を伐採して大規模な宅地開発等が行われることも少なくなった今、日本の土地改変の中で最も大きなインパクトの1つと言って良いかもしれません。伐採された後は、植栽によって人工林として育て上げることが確実な森林資源確保上求められていますが、苗木代等の植栽コスト、下刈りなどの保育コスト、ニホンジカがいる場所では防除コストなど、多額の費用がかかるため、植栽されずに天然更新が選択されることも多いです。しかし、人工林伐採後に種子などからの天然更新によって森林に戻ることが困難な場合も散見されています。

人工林から産み出されるモノ

 人工林からは最終的に木材が産み出されることが想定されていますが、植栽から伐採・収穫されて木材が産み出される、すなわち収益を得るまでには約50年近くの長い時間がかかります。したがって、収穫までの50年間の森林がもつ役割、特に炭素吸収機能が注目を集めています。その背景には、政府のカーボンニュートラルの方針や、東京証券取引所プライム市場上場企業に対するTCFD開示が実質義務化の動きなどがあります。省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度である「J-クレジット」制度の販売価格では、森林経営活動分野が最も高いのでこれまではその購入が敬遠されてきましたが、ここ数年で急激に増加しています。それは、炭素排出側の相殺のみならず、山側の収益と将来的な森林資源確保のための費用としても重要であるという視点が共有されつつあるのかもしれません。

 森林の炭素吸収機能を考えると、早く成長する樹種を植栽することがその増大への貢献度は高いでしょう。その一環として、成長の早い外来種を日本でも植栽する動きが進んでいます(写真2)。一方で、外来種植栽による弊害も懸念されているところです(長池2021、2025)。

写真2 日本でも植栽が進められているコウヨウザン(中国原産)。スギやヒノキよりも良好な成長は見られるものの、ニホンジカやノウサギによる摂食の嗜好性が高いため、植生保護柵外では成長が悪い。

 再生可能な資源であり炭素吸収源としての機能を持つことなどから、日本の人工林を伐採してその木材を使用することによるメリットを最大限享受することは重要です。一方で、伐採によって弊害がもたらされないようにすることも肝要です。特に、伐採から10年程度は、植栽木がまだ小さいこと、伐採された木の根株による土壌の緊縛力が失われること、斜面崩壊をもたらしやすいことが明らかになっています(林野庁2023)。気候変動によると思われる降雨の激烈化は、これまでとは異なった備えが森林伐採において必要になるかもしれません。また、伐採跡地は草原状となることから、ニホンジカにとっての好適な餌場となり得ることにも留意すべきです(長池2018)。

 「令和6年度森林及び林業の動向」(いわゆる森林・林業白書)では、「生物多様性を高める林業経営と木材利用」が特集です(林野庁2025b)。「林業経営を通じた生物多様性への貢献」が求められているために取り上げられています。人工林に絶滅危惧種が生息・生育していることは珍しいことではありません(伊藤・光田2012)。したがって、「自然再興」時代の林業は、生物多様性を「高める」ためにも「損なわない」という視点を忘れてはいけません。しかしながら、どこに絶滅危惧種が生息・生育しているかのデータは、盗掘等の懸念もありなかなか公開されませんし、そもそものそのデータ化も遅れていました。近年のシンク・ネイチャー等の活動により、これらについても情報が整理され活かされるようになってきたことは、林業と生物多様性を考える上での非常に強力なツールとなることでしょう。

 一方で、前述のように、自然条件の厳しい場所に植栽された人工林も少なからず存在しており、その中には原生状態の森林を人工林に置き換えた場所も含まれています。積極的に予算を投入して自然再生を進めていくことは難しいかもしれませんが、「もともと」の自然に返すという意味では、これらの森林の扱いも重要な意味を持つことになるでしょう。

 森林に求められる役割を発揮する上でトレードオフが生じることは間々あり、その解消が求められています。そのときに必要な視点としては、人工林の保育や管理には多くの公金が投入されていること、日本の森林の4割を占める人工林のあり方が日本の自然環境や社会環境に大きく影響すること、などでしょう。

 約20年前、国際会議でニュージーランドの研究者の「樹木は化学マテリアル工場である」との講演を聴き、驚いたものですが、現代は航空燃料や酒類など、木材だけではない活かし方・使い方が生まれてくる時代です。人工林を管理することは、木材という資源管理だけではなく、日本の自然環境、ひいては地域を管理することです。人工林は「自然」を構成している要素であるという認識を忘れないで適切に利用していくという視点が、「自然再興」と「カーボンニュートラル」、さらには人口減少の時代にますます求められるでしょう。

引用文献

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