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空間的優先付け:Zonationアプローチ[コンセプトノート#4B]

[Concept notes] 生物多様性評価のトップレベル原則

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エグゼクティブ・サマリー

多くの意思決定は空間的な性質を持っており、「どこで何を行い、どこでは行わないのか」という問いに答えるものです。これには、土地利用ゾーニング、新規建設の立地選定、自然に配慮した行動の空間的な対象設定などが含まれます。空間的な意思決定は、生物多様性の文脈において特に重要です。なぜなら、生物種や生息地タイプは、それぞれに適した環境条件を備えた特定の場所と強く結びついているからです。こうした空間的な意思決定は、国レベル、地域行政、企業、さらには個人レベルにおいても行われています。

空間的優先順位付けは、保全生物学の一分野であり、生物多様性を軸として空間的な意思決定を幅広く扱う学問領域です。この手法では、数千種に及ぶ生物種の分布、多様な生息地タイプ、生態系サービス、圧力(脅威)、コスト、行政上の制約などを統合・調整することが可能です。その結果、生態学的に十分な根拠に基づいた土地利用計画や、事業設計における生態系インパクトの回避といった問いに答えることができます。

Zonationは、高度な処理能力を備えた空間的優先順位付けソフトウェアです。生物多様性の次元と空間解像度の双方において高次元なデータを対象とし、バランスの取れた優先順位付けを行うために、特殊な数理的・計算的手法を用いています。本コンセプトノートでは、Zonationの用途、計算上の中核原理、機能、ならびに限界について概説します。また、理解を助けるために、日本における Zonationの出力例も示します。本テキストは、シンク・ネイチャーが人と生物多様性の相互作用への理解を深めることを目的として公開しているコンセプトノート・シリーズの第4B号です。第4号では空間解析全般を扱っており、本稿では Zonationに関するより詳細な解説を行っています。

本コンセプトノートを引用する場合は次の表記を用いてください。

Think Nature Inc. (2026). The Zonation approach to spatial prioritization (THINK NATURE CONCEPT NOTE #4B). Nature Positive Journal by Think Nature Inc. https://doi.org/10.5281/zenodo.18263792

※本記事のPDF版はこちらからダウンロード可能です(情報入力が必要)。

1. 空間的優先付けspatial prioritizationおよびZonationとは何か

空間的(保全)優先順位付けSpatial (conservation) prioritization:SCPは、生態学的根拠に基づく土地利用計画における意思決定支援に用いることができる。技術的には、生物多様性の要素(種、生息地タイプ、生態系サービスなど)の分布に関する空間データ、コストおよび機会費用、脅威(圧力、ストレッサーとも呼ばれる)、ならびに土地利用制約を統合的に解析することを含む。保護区ネットワーク拡張の設計といった従来型の SCP の用途は、生物多様性保全と直接的に結びついているが、空間的インパクト回避への応用も同様に重要である(第2章参照)。
Zonation は、SCP 解析を高性能に実装したソフトウェアである。2003年からヘルシンキ大学で開発が進められており、2024年にはバージョン5.2がリリースされた(図1)。Zonation 5 は極めて大規模な問題に適用可能であり、データセットは10万を超える特徴レイヤを含むことができ、景観の空間次元は数億の空間要素(グリッドセル)に達し得る。これは、全球解析であれば1 km²未満の解像度、また多くの国における国家スケール解析ではサブヘクタール解像度に相当する。非常に大規模なデータを解析できる能力により、土地利用パターンのスケールと一致した解像度での解析が可能となり、優先順位付けの結果は現実の意思決定に直接的な意味を持つ。

図1 2024年にリリースされたZonation v5マニュアルの表紙。完全オープンアクセスである。

基本的な Zonation 解析の設定自体は比較的容易であるが、解析全体は、データの準備、Zonation 外での前処理、Zonation 内でのデータ変換、優先順位付けの実行、そして結果の解釈から成る。より複雑な解析では、解析の構築および結果解釈に関する経験が有用となる。具体的な Zonation 出力例については第4章を参照されたい。多くの場合、データ整備が作業全体の中で最も大きな比重を占める。例えば、数千に及ぶ高品質な統計的種分布モデルがあらかじめ存在していれば、信頼性の高い空間的優先順位付けは迅速に実施できる。一方で、基礎変数や種の観測データの収集から始め、その後に統計モデリングを行う必要がある場合、優先順位付けに適したデータが整うまでに長い時間を要する。しばしばそうであるように、データの利用可能性は、適時の行動を左右する重要な要因となる。

データはよいアウトプットのために不可欠である。
質の高いデータを収集し、維持するには、長期にわたる相当な努力が必要となる。

2. Zonationは何に使えるか

Zonation には、データ量が多く、大規模かつ高解像度で、構造的に複雑な空間的優先順位付けを実装するための多様な機能および解析オプションが備わっている。詳細については、最新版の Zonation マニュアルおよびそこに引用されている多数の文献を参照されたい(https://zonationteam.github.io/Zonation5/)。BOX1には、代表的な解析タイプの一部がまとめられている。


保護区ネットワーク設計
空間的優先順位付けの最も古典的な応用である。可能な限り包括的な生物多様性分布データ(例:GeoTIFF 形式などの GIS ファイル)を集約することが求められる。解析では、それらの生物多様性をバランスよく、かつ費用対効果の高い形で共同的にカバーする区域の集合を特定する。

保護区ネットワーク拡張の計画
既存ネットワークの不足を補い、可能な限り効果的に改善する新たな区域を見出すことに焦点を当てる。これには、現在のネットワークにおいて未充足または相対的に代表性の低い種や生息地タイプのカバー率を高めることが含まれる。また、ネットワークが希薄な地域における網羅性の改善を目標とすることもあり、その場合は複数の計画区域を考慮する必要がある。既存保護区との近接性は、連結性(コネクティビティ)変換を用いて強調することができる。

生息地の再生または維持の計画
利用可能なデータに応じて、さまざまな方法で実施できる。単純な方法としては、局所的に再生(あるいは維持)に適しており、かつ生物多様性のコア地域に近接した区域を選定することで、再生後の生息地における再定着が円滑に進むことを期待する手法がある。より複雑でデータ要求の高い方法では、再生が種レベルでどの程度の変化をもたらすかというモデル化された差分に基づいて、直接的に優先順位付けを行う。この場合、再生のコストは再生手法と立地の双方に依存するため、費用対効果が重要な論点となる。

空間的インパクト回避の設計
ビジネス上きわめて重要なテーマである。基礎となる解析設定は上記のいずれの設定とも共通し得るが、重要な生物多様性が可能な限り少ない、優先順位の低い区域に焦点を当てる点が特徴である。解析設定では、建設フットプリント内に残る影響だけでなく、攪乱の影響距離も考慮する必要がある。
BOX1 Zonationを用いたSCPの主要な応用とその特徴

3. Zonationはどのように動くか


i) データ
Zonation 解析は、データ、データ処理、解析設定、そして結果解釈から構成される。データは、生物多様性、圧力(脅威)、コスト、土地利用可能性などの行政的要因を表現する。生物多様性データには、一般に、種分布マップ、生息地マップ(生息地状態を含む)、生態系サービス供給マップが含まれる。主要なデータはすべて、同一地域を同一解像度でカバーする GIS 形式のラスターマップである。使用可能な最大マップ数は、計算機のメモリ容量によって制約される。これまでに、数千から数万枚のマップを統合した空間的優先順位付け解析が数多く公開されている。分布マップに加えて、Zonation では、例えば種ごとに異なる生態学的連結性の空間スケールを記述する各種パラメータを設定することができる。

ii) データ前処理
解析の第二段階は、Zonationの外部および内部で行われるデータ前処理である。技術的には、Zonationに実装された前処理変換には、生息地状態、行動が取られない場合における生物多様性の残存、ならびに生態学的連結性に関するものが含まれる。連結性変換は、多くの場合、放射対称な分散カーネルに基づいており、種ごとにスケーリングすることができる。連結性変換は、個別の要素間、要素のペア間、あるいは複数の要素群(例:異なる森林タイプ)間で実装されている。これらの変換の詳細については、Zonationユーザーマニュアルを参照されたい。データの読み込みと前処理が完了した後、優先順位付けそのものが実行される。

iii) 優先順位付け
優先順位付けアルゴリズムは Zonationの中核である。このアルゴリズムには、要素間のバランスを実現するための、単純ではあるが自明ではない複数の要素が含まれている。以下に、その本質を要約する。詳細については、Zonationマニュアルおよび関連する学術論文を参照されたい。

Zonation における優先順位付けの基本原理

  1. まず景観(グリッドセル)全体を考える。
  2. あるセルを失うことによって生物多様性に生じるバランス化された損失が最小となるグリッドセルを特定し、これを r とする。この段階では、すべてのグリッドセルについてバランス化された損失を評価する必要がある。
  3. セル r に次の順位を割り当て、残存するグリッドセル集合から除外する。各要素について、セル r に存在していた分だけ、残存分布量を減少させる。
  4. グリッドセルが残っていれば、手順2に戻る。

このアルゴリズムの特徴的な点は、手順2におけるバランス化された損失の計算である。バランス化は以下のように行われる。各要素について、未順位付けセル集合に残っている当該要素の総和でセルごとの値を割ることにより、要素当たりの各セルでの(ある繰り返しステップにおける)損失量を求める。それを合算(すなわち、未順位付けセル内での希少性で重みづけた各特徴量の和を計算)することにより、未順位付けセルの(ある繰り返しステップにおける)損失量を求める。そして、ステップの更新においては最も損失が少ないセルが除外される。ここで、除外される順番が早いほど、優先度が低いとみなされる。この「考慮するセル集合の縮小」と「損失再評価」の繰り返しによって、要素間のバランスが実現される。すなわち、ある要素が存在するセルが除外されることで、未順位付けセル集合中でのその要素の総和が減少すると、残っている部分の価値は相対的に高くなる。

もう一つの重要な特徴は、アルゴリズムが「逆向き」に動作する点である。すなわち、景観全体から開始し、グリッドセルを一つずつ除去していく。この手順は、損失を最小化することが、結果として残存価値を最大化することに対応している。また、逆向きに処理する(=優先度の高いセルを残していく)という向きにランク付けを行うことで、残った(=高順位である)セル間の連結性が高くなるように各ステップでの損失計算を設計できるようになる。ただし、この点の理解には、ある程度の考察を要する。

以上の説明は、アルゴリズムの完全な記述ではなく、基本的な考え方のみを示したものである。手順2において損失をどのように要素間で集約するかについては、いくつかの技術的選択肢があり、これらは「周辺損失ルールmarginal loss rule」と呼ばれる。ここには要素の重み付けも含まれる。要素は、正、ゼロ、負の重みを持つことができる。正の重みを持つ要素は保持したい対象(例:生物多様性)であり、負の重みを持つ要素は回避したい対象(例:コスト、機会費用、脅威、侵略的外来種など)である。ゼロの重みを持つ要素は追跡のみが行われ、優先順位付けには影響しないが、データや解析設定の副次的影響を評価する際に有用である。

さらに、ランキング過程におけるメモリ使用量や再計算量を最小化するための技術的工夫も存在する。これらの詳細は高レベルの説明には含めないが、ここで述べた以上に多くの処理が関与していることを理解しておくことは有益なこともある。

iv) 結果の解釈
解析の最終段階は、優先順位付け結果および関連する定量的成果を、情報ニーズや意思決定目的に即した形で解釈・可視化することである。例えば、保護区ネットワーク拡張と、建設における空間的インパクト回避では、優先順位付け結果の異なる部分に注目する。次節では、Zonation の基本的な出力セットがどのようなものであるかを説明する。

4. Zonationのアウトプット

i) 優先順位ランクマップ
図2は、日本における両生類およびトンボ類の保全優先順位ランクマップを示している。両生類とトンボ類のマップは互いに似ているが、両分類群の分布は完全に相関しているわけではないため、同一ではない。両者を統合したマップは、両分類群に対してバランスの取れた優先順位を示している。理想的な空間的優先順位付けには、多様な生物種および生息地タイプが含まれるべきである。例えば、本例の種ベースのマップは、植物、哺乳類、鳥類に関する空間データも統合することで、保全上の妥当性がさらに高まる。

図2日本の両生類(左)、日本のトンボ類(中央)、および両者を統合した場合(右)についての、Zonation による優先順位ランクマップの例を示す。本可視化で用いられているカラースケールでは、優先度の低い区域が青色、高い区域が赤色で示されており、スケールは図の下部に示されている。

優先順位ランクマップは、グリッドセルの順位をカラースケールで示したものである。可視化にあたっては、対象となるケースに即した表現を行うことが重要である。例えば、保護区ネットワークの拡張が課題である場合には、既存の保護区を一つのカラースケールで示し、拡張候補地を別のカラースケールで示し、残りの景観をさらに別の色で示すといった表現が考えられる。図2では汎用的な配色が用いられているが、Zonation 5ではケースに応じた配色を定義することが可能である。

ランクマップを解釈する際に重要なのは、このマップがグリッドセルの線形な順位付けに基づいているという点である。実際には、ランク1.0と0.99差と、0.05と0.04の差は、そのセルが失われた場合の損失量の差という観点では別物である。そのため、原則として、他の定量的情報と併せて解釈されるべきである。そこで重要となるのがパフォーマンスカーブであり、これは、種やその他の生物多様性要素が景観全体の中でどの程度集中的に分布しているかを示す有用な情報となる。

ii) パフォーマンスカーブ
パフォーマンスカーブは、アルゴリズム概要で述べたステップ3に関連する。景観全体から解析を開始した場合、初期段階での損失が小さく(カーブが平坦である)のは想定どおりの挙動であり、優先度の高い区域に近づくにつれてカーブが急になる(損失が増大する)。これは、生物多様性の要素が景観の中でも生態学的に最も価値の高い区域に集中している一方で、管理林、住宅地などの区域は相対的に生物多様性が低いためである。

図3両分類群をバランスさせた優先順位ランクマップ(図2)に対応する Zonation のパフォーマンスカーブを示す。細い線は個々の種を表しており、両生類はオレンジ色、トンボ類は紫色で描かれている。太い線は分類群ごとの平均を示し、すべての種を平均したものは中央付近の太い青線で示されている。強く凸型のパフォーマンスカーブは分布域が比較的狭い種に対応し、対角線に近いカーブは、限られた面積では十分にカバーできない広域分布種を表している。上位および下位の割合は破線の縦線で示されており、これらの順位範囲は図5で参照されている。

図3を見ると、要素ごとにカーブの形状が異なっていることが分かる。なぜこのような違いが生じるのか。これは本質的には、分布域の広さと、要素間の重なりの問題である。図4は、異なる形状のカーブを示す要素の例を模式的に示している。ある要素のカーブが強く凹型、すなわち初期は平坦で最後に急激に低下する場合、その要素は比較的小さな面積でカバー(保全)できることを意味する。一方、カーブが対角線に近い場合、その要素は広範に分布しており、小面積では十分にカバーすることができない。

図4の例では要素は4つしか示されていないが、実際のデータセットでは、数千の要素が含まれることも珍しくなく、要素間の重なり方や、分布域内部における局所的な出現量も多様である。例えば、1000の要素が存在すれば、要素間のペアの重なりだけでも50万通りに達する。このような状況では、手作業による検討は不可能であり、自動化された解析が不可欠となる。

図4種やその他の生物多様性要素の分布域の広さおよび分布の重なりが、優先順位付けやパフォーマンスカーブにどのように影響するかを模式的に示した図である。要素AおよびBは分布域が狭く、かつ重なりが大きいため、最もカバーしやすい。特に要素Aは、要素Bをカバーする過程の副次的な結果として同時にカバーされる。このような要素は、強く上に寄った型のパフォーマンスカーブを示す。要素Cは広域分布であり、小面積では十分なカバー率を確保できないため、パフォーマンスカーブは対角線に近い形状となる。要素Dも分布域は狭いが、他の要素との重なりが少ないため、AやBに比べるとややカバーしにくい。CとDが重なる区域は、2つの要素に同時に効果をもたらすため、相対的に高い優先度を持つ。要素数が多くなると、このような「入れ子状の階層構造(nestedness hierarchy)」は極めて複雑なものとなる。

iii) ヒストグラム
ヒストグラムは、パフォーマンスカーブを縦方向に切った断面を可視化したものである。例えば、景観の上位ごく一部の割合における生物多様性のカバー率(図5a)、景観の上位より広い割合における生物多様性のカバー率(図5aやb)、あるいは景観の下位部分に含まれる生物多様性の量(図5c)を要約・可視化するために用いることができる。多くの場合、景観の上位ごく一部の区域を対象とするだけで、多くの特徴量(種)がカバーされることが明瞭に示される。一方で、景観の下位部分には、一般的で広域分布する種が低い密度で存在するのみであることが多く、その結果、パフォーマンスカーブは平坦となり、ヒストグラム上でも生物多様性の値は非常に低く示される(図5c)。

図5任意に選んだ優先順位ランクの範囲から作成できるヒストグラムを示す。ここで示すヒストグラムは、図2cおよび図3に対応している。縦軸は、各カバー率ビン(階級)に含まれる特徴量(種)の数を表す。カバー率(横軸)は、選択したランク範囲に属する領域内でカバーされている、その特徴量の出現量の合計が、全ての出現量に占める割合を示している。(a) 景観の上位10%(ランク 0.9–1.0)では、約80種が95%を超えるカバー率を示しており、5%未満のカバー率しか持たない種はごくわずかである。(b) 次に高い10%(ランク 0.8–0.9)では、カバー率の増加はすでにかなり小さくなっており、30%を超えるカバー率を示す種は存在しない。(c) 下位ランクの領域は、影響回避の観点では有利である。ここでは、266種中250種以上が5%未満のカバー率しか示しておらず、上位ランクの領域と比べて種の出現密度が非常に低いことを意味している

5. Zonationができること、できないこと

本章の目的は、Zonationが何を行うことができ、何を行わないのか、そして空間計画における別のパラダイムであるターゲットベース最小集合被覆型計画と比較して、どのような特徴を持つのかを明確にすることである。

Zonation ができること

  • 生物多様性、脅威、コストなどの景観上の分布を表す GIS ラスターデータを用いることで、データリッチかつ高解像度な空間計画が可能である。
  • 関連要因の出現パターンに基づいて、柔軟な空間計画が可能である。

Zonation ができないこと

  • Zonationは、プロセスベースの動的モデリングを行うものではない。
  • 種分布やその他の関心要因に関する統計モデルを構築・推定することもしない。多数のモデルから得られた予測結果を統合することは行うが、モデルそのものを作成するわけではない。ただし、Zonationが示した上位優先地域において、後になって重要な種が発見されることはしばしばある。

ターゲットベース計画(Target-Based Planning, TBP)は、古くから用いられており現在でも広く利用されている空間計画パラダイムである。これは、「関心のあるすべての生物多様性要素について、所定の被覆目標を満たす最小(あるいは最も低コストな)領域集合を見つける」という問題に答えるものであり、オペレーションズ・リサーチにおける最小集合被覆最適化問題に相当する。

ターゲットベース計画との比較

  • 両者は完全に異なる方法論で空間計画を行う。
  • TBP の問題設定は理解しやすい一方で、Zonationのプロセスや結果を理解するには、より多くの理解努力を要する。
  • TBP は、解の性質(=ターゲット)を人が事前に指定するという意味で規定的(prescriptive)である。一方 Zonationでは、解は優先順位付けの結果として自発的に現れる性質を持つ。TBP では単一の領域集合が解となるが、Zonationでは完全な優先順位マップとそれに対応する曲線群が解となる。
  • ターゲットの設定自体には本質的な問題がある。数千種に及ぶそれぞれの種に対して、適切なターゲットをどのように決めればよいのかという問題である。種の入れ子構造(nestedness hierarchy)を考慮することは、TBP では実質的に困難である。
  • Zonationでは、ターゲットや予算を事前に指定する必要がなく、優先順位結果をもとに後から幅広い条件を検討できる。入れ子構造に由来する効率性の機会も、自動的に活用される。
  • TBP は影響回避(impact avoidance)の計画には適していないが、Zonationの解は常に低ランク地域に関する情報も含む。
  • Zonation は TBP に比べて、扱えるデータセット規模に対する制約が小さい。TBP では、空間要素数と同じ次元を持つ線形最適化問題を解く必要がある。
  • 実証的な比較研究では、ターゲットベース計画で選定された領域集合と同じ面積を用いた場合、Zonationの順位付けにおける同面積の上位部分は、通常 1.5~3倍の生物多様性をカバーすることが示されている。これは、TBPにおいてはターゲットを離散的に定める必要があるため、解が階段関数的な制約を受けることに起因している。この制約により、複数の特徴量を効率的にバランスさせることができない。

6. シンク・ネイチャーのアプローチ

シンク・ネイチャーは、創業初期から一貫してZonationを活用しており、現在のメンバーのうち4名は、日本における初の空間的優先順位付けの実施に関与してきた。利用可能なデータおよびZonationの技術的な能力が許す範囲において、目的に応じたカスタマイズされた応用を開発することが可能である。

文献目録

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  • Di Minin, E., Brooks, T.M., Toivonen, T., Butchart, S.H.M., Heikinheimo, V., Watson, J.E.M., Burgess, N.D., Challender, D.W.S., Goettsch, B., Jenkins, R., & Moilanen, A. (2019) Identifying global centers of unsustainable commercial harvesting of species. SCIENCE ADVANCES 5, eaau2879. DOI: 10.1126/sciadv.aau2879. 
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  • Jalkanen, J., Vierikko, K., Kujala, H., Kivistö, I., Kohonen, I., Lehtinen, P. et al. (2025). Identifying priority urban green areas for biodiversity conservation and equitable recreational accessibility using spatial prioritization. LANDSCAPE AND URBAN PLANNING, 259.
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  • Lehtomäki, J., Kusumoto, B., Shiono, T., Tanaka, T., Kubota, Y. & Moilanen, A. (2019). Spatial conservation prioritization for the East Asian islands: A balanced representation of multitaxon biogeography in a protected area network. DIVERSITY AND DISTRIBUTIONS, 25, 414-429.
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  • Virtanen, E.A., Viitasalo, M., Lappalainen, J. & Moilanen, A. (2018). Evaluation, Gap Analysis, and Potential Expansion of the Finnish Marine Protected Area Network. FRONTIERS IN MARINE SCIENCE, 5.
  • Virtanen, E.A., Lappalainen, J., Nurmi, M., Viitasalo, M., Tikanmäki, M. Heinonen, J., Atlaskin, E., Kallasvuo, M., Tikkanen, H. & Moilanen, A. (2022). Balancing profitability of energy production, societal impacts and biodiversity in offshore wind farm design. RENEWABLE AND SUSTAINABLE ENERGY REVIEWS 158, 112087.

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