2026年は午年です。野生生物としてのウマは日本には野生分布していませんが、家畜としてのウマは日本の様々な文化に深く関わっています。弥生時代ごろに朝鮮半島から日本にもたらされたとされるウマは、輸送手段や農耕における労働力、軍事利用などに広く用いられてきました。現在では、競馬や乗馬のようなレクリエーション、スポーツにも不可欠な存在です。本記事では、日本と世界におけるウマの歴史を通じて、人と自然の関わりを考えてみましょう。
| ウマの生態系サービス | ENCORE上のカテゴリ |
| 輸送・労働力 | Other provisioning services – Animal-based energy |
| 食用 | Biomass provisioning services |
| レクリエーション | Recreation-related services |
| 神聖な対象(「神様の乗り物」など) | Spiritual, artistic and symbolic services |
日本の在来馬から
日本には、古くから放牧されてきた在来の馬種が存在します。競馬などで目にする西洋馬とくらべずんぐりした体躯が特徴です。こうした馬種としては、北海道和種、木曽馬、野間馬、御前馬、対州馬、トカラ馬、与那国馬、宮古馬の8つが知られています(図1)。ここで在来とは、在来自然分布を指すのではないことに注意が必要です。これまでは、南方と北方では異なる系統が日本にもたらされたと考えられていましたが、近年の研究で、すべてモンゴル地域から朝鮮半島を経て伝わったものであることが示されています (Tozaki et al. 2019) 。

こうした在来馬は、西洋産の軍馬を増やす政策によって大きく減少しました。南部馬のように絶滅してしまった品種も多くあります。現在では上記の8品種が局所的に維持されています。これらの種も、1990年から2010年ごろまでに半減(公益社団法人日本馬事協会 馬の統計&資料 https://www.bajikyo.or.jp/regist_05.html accessed 2026/01/06)するなど、危機的状況にあります。
なお、こうした現象は、伝統的な農地・放牧景観の喪失と一般化できます。例えば、ウマの放牧は、草原環境と深く関わっていますが、日本では、継続管理される草原環境が明治時代から99%減少しています。シンク・ネイチャーでは、こうした草地の減少状況や保全上の重要度を示可視化するツールを開発しました(図2)。

伝統的な酪農、農業実践の衰退によって消失しつつある自然資本を維持し、回復するための取り組みが必要です。
世界のウマの歴史から
現在、野生のウマ(Equus属)種は7種が知られています(ノウマ、ノロバ、シマウマなど)。現生のウマ属の祖先としては、Plesippus simplicidens が知られています(かつては Equus simplicidens と記載されていたが、分類が改定)。この種は北米大陸で起源し、氷河期にベーリング海峡を渡り、ユーラシア大陸にたどり着いたと考えられています(Rook et al. 2019;図3) 。その後北米では1万年前ごろにウマは絶滅し、現在は在来分布するウマはいません。気候変動の影響や人間による狩猟といった複合要因が絶滅に影響したと考えられています。

日本に生息するウマの原種であるノウマ Equus ferus は現在では中国内モンゴル自治区および、モンゴルの一部に境域分布しています(図4)。ヨーロッパにもターパンと呼ばれるノウマ(種としてはノウマと別種とする説もある)が生息していましたが、100年以上前に絶滅しました。モンゴルのノウマ(モウコノウマと呼ばれることもある)も、かつては広く分布していたものと考えられます。

国連FAO (https://www.un.org/en/observances/horse-day) によると、世界中には6000万頭のウマが飼育されているとされています。野生下で激減する一方で、家畜として個体数を拡大したウマ。こうした傾向は家畜化された動物一般にもみられます。McGowan et al. (2019) によると、家畜に近縁な55種のうち、28種が絶滅危惧種になっています。これは、以下のように説明できます。家畜化された動物(ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタなど)が利用している土地は、もともとそれらの野生近縁種が生息していた土地と大きく重なっています。そのため、放牧地化や農地化、さらにはインフラ整備といった土地利用の転換が進むことで、野生近縁種が利用できる生息地は直接的に失われてきました。このように、人為的に維持・拡大される家畜利用の拡大は、結果として野生集団の生息空間を体系的に縮小させる要因となっているのです。
有用種と近縁な野生生物が存在することによって、今後の潜在的生態系サービスを維持するというロジックは、種を「遺伝資源」ととらえる考え方です。 こうした価値を、[経済価値に関連したある生物の機能の発生確率]×[商品化された場合の経済価値 – 商品化のコスト]といった計算式によって算定する方法があります(薬につながる有用物質の価値などで用いられます)。有用種がもたらす経済効果は、生物多様性への投資を促す根拠の一つですが、定量評価のためのデータや方法論はいまだ発展途上です。また、遺伝資源を取り巻く国同士の権利の配分は、生物多様性条約CBDの3つの目的のうちの1つに挙げられるなど、国際関係上重要な論点になっています。
おわりに:時空間を通じて見える視点
身近なものごとを、時空間、すなわち歴史-地図を通じて理解することは、自然資本の持続的利用を考える上で不可欠です。現代社会に不可欠な農作物や鉱物資源は、気候や地質、それらの変化によって制約されて空間分布しています。その成り立ちを科学的に理解することによって、自然資本がもたらす便益の費用対効果を高めることができるのです。こうした「自然資本経営」を実践するためには、普段からこうした考えを実践してみるのが大切なのかもしれません。
本記事では身近なウマを対象に、日本-世界といったスケールで、地図を通じて自然資本を掘り下げてみました。
引用文献
- Tozaki, T., Kikuchi, M., Kakoi, H., Hirota, K., Nagata, S., Yamashita, D., Ohnuma, T., Takasu, M., Kobayashi, I., Hobo, S., Manglai, D., & Petersen, J. L. (2019). Genetic diversity and relationships among native Japanese horse breeds, the Japanese Thoroughbred and horses outside of Japan using genome‐wide SNP data. Animal genetics, 50(5), 449-459. https://doi.org/10.1111/age.12819
- Rook, L., Bernor, R. L., Avilla, L. S., Cirilli, O., Flynn, L., Jukar, A., Sanders, W., Scott, E., & Wang, X. (2019). Mammal biochronology (Land Mammal Ages) around the world from Late Miocene to Middle Pleistocene and major events in horse evolutionary history. Frontiers in Ecology and Evolution, 7, 278. https://doi.org/10.3389/fevo.2019.00278
- McGowan, P. J., Mair, L., Symes, A., Westrip, J. R., Wheatley, H., Brook, S., … & Butchart, S. H. (2019). Tracking trends in the extinction risk of wild relatives of domesticated species to assess progress against global biodiversity targets. Conservation Letters, 12(1), e12588. https://doi.org/10.1111/conl.12588