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沖縄のやちむんと自然資本

Nature bits 自然のひとかけら

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沖縄に暮らし始めて25年が経過し、自然と共にある日々の生活では様々なことに影響を受けてきた。その中でも、私の暮らしに深く根付いてきたものの一つが「やちむん」だ。沖縄の方言で、焼き物のことである。もともと妻がやちむんを好んでいたことに影響され、私自身もその世界に魅了されていった。

私が沖縄に暮らし始めた2000年頃によく見かけていたやちむんは、ベージュ等の土の色を基調とした素朴で厚みのある器に、魚や植物を抽象的に・時には写実的に描いたダイナミックな文様が主流だった。最近では、色彩が豊かで、モチーフの多様化により器の形も様々で、その進化に大変驚かされている。「かわいいから連れて帰りたい」と、妻はやちむん市に行くたびにお気に入りの器と出会っている。市場で作り手と話をすることも多いのだが、県外出身者が多く、移住の理由を聞くと、沖縄の自然の中での暮らしが好き、という方が多いように思える。作り手は、沖縄の風土を自らの感性と融合させ、かつ現代のエッセンスを加味することで、自然と文化の融合させた姿を自由に表現しているのだろうか。

写真 自宅の器(編集部撮影)

観光業が発展し、大型リゾートやショッピング施設が整備される中、沖縄の美しい海や緑といった自然が、観光資源として活用されてきた。このように、沖縄の自然資本は外的に価値づけられている。国内外から多くの人がその魅力を求めて訪れるのは、喜ばしい経済的恩恵でもある。

一方、やちむんのような工芸は、その姿の内に表現された自然、つまり「内的自然資本」の表現だと思える。作り手たちは、風土、文化を感受し、陸海空に動く生き物を捉え、それを形や文様に落とし込んでいく。そうして生まれた器には、沖縄で培われた自然と精神との結びつきが感じられる。やちむんで彩られる食卓では沖縄の自然と思い出が喚起され、精神的な恩恵を受けていると言える。

さて、ネイチャーポジティブとは、「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させる」ことを意味する、とある。やちむんを見ていると、その一端を垣間見ることができるように思える。たとえば、赤土の流出問題。赤土とは、沖縄県に分布する複数の土壌のことで、まとめて赤土等と呼ばれている。粒子が細かく流されやすいため、海までの距離が短い沖縄では工事などの人為的要因で裸地が発生すると海に流出しやすい。これが、サンゴ礁をはじめとする海の生物に悪影響を与えており、長期的に見ると経済的にネガティブであると言われている。昨今では十分な対策が行われているものの、このような背景から赤土は時に否定的に語られがちだ。その一方で、やちむんに不可欠な天然資源でもある。赤土は、沖縄の大地の歴史と、動植物の活動が作ったものだ。私たちの関わり方ひとつで、赤土は社会問題の原因にもなれば、地域文化を支える自然資本にもなる。目先の経済的利益を追求するだけではなく、自然の恵みを生かした持続可能な豊かさも、大切にしたい。

やちむんは、人の生活の道具であり、作家の感性の体現であり、自然風景が元となっている。自然資本を消費して産業を発展させることも重要である一方、内に取り入れ、育み、解釈し、形を成して次の世代に繋がっている。片手で持てるやちむんにも自然資本が組み込まれていることを忘れずにいたい。

参考

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