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生物多様性指標と金融機関のリスク管理

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生物多様性指標の概要と金融機関での活用

金融機関は、投資先企業の生物多様性への影響評価およびリスク管理のために、生物多様性指標を活用しています。代表的な生物多様性指標ツールは以下の通りです:

ツール名称提供者指標
BIA-GBS (Biodiversity Impact Analytics – Global Biodiversity Score)CDC Biodiversité and Carbon4 FinanceMSA
GBS-FI (Global Biodiversity Score for Financial Institutions)CDC BiodiversitéMSA
CBF (Corporate Biodiversity Footprint)Iceberg Data LabMSA
BFFI (Biodiversity Footprint for Financial Institutions)CREM and PRé Sustainability, together with ASN BankPDF
GID (Global Impact Database)Impact InstituteMSA, PDF
BIAT (Biodiversity Impact Assessment Tool)ISS ESGMSA, PDF

主要な指標としてMSAとPDFが広く採用されており、これらは特定地域における環境への圧力(土地改変、気候変動、汚染等)を入力とする数理モデルに基づいて、生物多様性に与える影響を定量化します。

MSA (Mean Species Abundance): 単位面積当たりの種の豊富度を原始状態と比較して算出する指標。1が原始状態、0が絶滅状態を示します。特定時点の状態評価や、将来予測としての単位時間・単位面積当たりの喪失量計算に適用可能です。

PDF (Potential Disappeared Fraction): 単位時間・単位面積あたりの種の絶滅確率をモデルによって加重平均した指標。1が絶滅、0が変化なしを示します。

生物多様性指標の有用性と実務適用事例

これらの指標の主な利点は、解釈の容易さと(課題は存在するものの)ポートフォリオベースでの集計可能性にあります。そのため、ファンド構築やポートフォリオ全体の統合指標として活用されています。

具体的な適用例として、以下のETF組成に用いられている株式インデックスが挙げられます:

インデックス名称ETF組成者指標ツール
ISS Stoxx Biodiversity indexDWSBIAT
Euronext ESG Biodiversity Screened IndexHSBCCBF
Euronext Euro Large Cap Biodiversity Leaders 30 indexBNPBIA-GBS

生物多様性指標の課題と今後の展望

地域特性の反映不足

    標準的な生物多様性指標の利用においては、地域個別性の考慮不足と地域間相互作用の欠如という課題が顕在化しています。ETF組成などポートフォリオレベルでの俯瞰を目的とする場合、インパクトの大まかな総合評価としてのフットプリントは便利です。しかし、フィルタリングや優先順位づけにおいては、単純な地域間比較や合算は誤った意思決定を招く可能性があります。例えば、アマゾン熱帯雨林における1ヘクタールの森林破壊と、温帯地域における同面積の森林破壊を単純に比較することはできません。前者は地球規模の生物多様性に対してより大きな影響を持つ可能性があります。正しく経済活動の自然資本への影響を比較するには、特定地域固有の生態系サービスの保全優先度などを考慮する必要があります。

具体的な行動に対する動機づけの不足

    既存の生物多様性指標は、自然資本への影響の標準指標として採用される傾向にありますが、真に行動変容を促すためには、生物多様性の損失がもたらす財務リスクを明確に示すことが不可欠です。例えば、コーヒー生産に依存する企業にとって、熱帯地域の生物多様性損失は直接的な経済的リスクとなります。花粉媒介者の減少は収穫量に直接影響し、財務パフォーマンスを左右する可能性があります。自然資本への影響を財務リスク評価へ結びつけるためには、特定地域の多様性の状態やその変化の総合評価ではなく、その地域における生態系サービス、つまり個別コモディティの生産に対する影響まで分解する必要があります。すなわち、物理リスク評価への活用を最初から意識した依存と影響の測定を実施する場合には、必ずしも標準指標としてのフットプリントが適切とは限らないことを念頭におく必要があるでしょう。

金融機関は、これらの課題に取り組み財務リスクと地域個別性を考慮したより高度な生物多様性の分析と活用を行うことで、持続可能な投資判断を下すことができるでしょう。また、投資先企業に対してもより具体的な生物多様性保全策の実施を促すことが可能となります。標準的な生物多様性指標は重要な出発点ですが、金融機関はこれらの指標を超えて、より包括的で地域特性を考慮したアプローチを採用する必要があります。このような進化した手法を通じて、金融セクターは生物多様性保全に向けたグローバルな取り組みにおいて、より効果的な役割を果たすことができるでしょう。

参考文献

  • FfB Foundation (2025). Biodiversity measurement approaches – A practitioner’s guide for financial institutions – Annex on Assessing Impact to FfB Pledge Guidance, 4th edition. https://www.financeforbiodiversity.org/wp-content/uploads/Biodiversity-measurement-approaches_A-practitioners-guide-for-financial-institutions_4th-edition.pdf
  • Mark Goedkoop, Axel Rossberg and Marina Dumont (2023). Bridging the gap between biodiversity footprint metrics and biodiversity state indicator metrics, PRé Sustainability. https://www.biodiversity-metrics.org/uploads/1/2/7/5/127509512/bridging_the_gap_between_biodiversity_footprint_and_biodiversity_state_indicator_metrics_2e.pdf
  • Robeco (2024). 生物多様性の全体像 – 投資判断に資するデータの探求. https://www.robeco.com/files/docm/docu-202403-robeco-navigating-the-biodiversity-landscape-jp.pdf
  • 久保田 康裕, 楠本 聞太郎, 塩野 貴之, 五十里 翔吾, 深谷 肇一, 高科 直, 吉川 友也, 重藤 優太郎, 新保 仁, 竹内 彰一, 三枝 祐輔, 小森 理 (2023). 生物多様性ビッグデータに基づいたネイチャーの可視化:その現状と展望, 計量生物学, 2022-2023, 43 巻, 2 号, p. 145-188. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjb/43/2/43_145/_article/-char/ja

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